【診療所開業規制】「好きな場所で自由に開業」はもう古い?2025年以降の「外来医師多数区域」攻略法と専門家活用のススメ
クリニック開業・経営
2025/12/11
2025/12/16
この記事の監修
行政書士法人RCJ法務総研 代表 / 行政書士
株式会社リアルコンテンツジャパン(経済産業省認定経営革新等支援機関) 代表取締役
古川 晃
医療許認可の専門家として17年、医療法人設立・分院開設・合併・解散・一般社団法人による診療所開設など医療許認可1500件以上 クリニック様の助成金・補助金・融資などの資金調達100億円以上の支援実績
日々の診療、誠にお疲れ様です。
これまで日本の医療は、医師免許さえあれば、原則として「いつでも」「どこでも」自由に診療所を開設できる「自由開業制」によって支えられてきました。
しかし、現在その前提が大きく揺らいでいることをご存知でしょうか?
2025年現在、国は「医師の働き方改革」と並行して、長年の課題である「医師偏在の是正」に本腰を入れています。
都市部にクリニックが乱立する一方で、地方では医師不足が深刻化している現状を打破するため、都市部での新規開業に対して実質的なハードルを設ける動きが加速しています。
特に注意が必要なのが、「外来医師多数区域」における開業です。
もし先生が、都心部や駅前の好立地で開業を計画されているなら、数年前の常識は通用しなくなります。
「物件も決めた、内装業者も手配した。あとは保健所に届出を出すだけ」
そう思った矢先に、「地域医療構想の協議が終わっていないので、まだ受理できません」と言われたらどうしますか?
本記事では、クリニック経営を左右する最新の「開業規制」の現状と、複雑化する行政手続きを乗り越え、最短ルートで理想の開業を実現するための戦略について解説します。
そもそも「外来医師多数区域」とは何か?
まず、今回の規制の主戦場となる「外来医師多数区域」について正しく理解しましょう。
これは、厚生労働省が定める「医師偏在指標」に基づき、二次医療圏ごとに算出されます。
簡単に言えば、「人口に対して、外来診療を担う医師の数が全国平均よりも著しく多い地域」のことです。
ターゲットは「都市部の人気エリア」
具体的には、東京23区の多くのエリアや、大阪市、名古屋市、福岡市などの政令指定都市の中心部がこれに該当します。
つまり、集患が見込める人気エリアのほとんどが、この「規制(調整)の対象」となっている可能性が高いのです。
国としては、「これ以上そこにクリニックを作っても、患者の奪い合いになるだけでしょう? 医師が足りない地域に行ってください」というメッセージを発信しています。
もちろん、現時点では法律で「開業禁止」まで踏み込んでいるわけではありません。
しかし、行政側はこの指標を根拠に、新規参入者に対して「強い要請」を行う権限を持つようになります。
【最重要】開業のハードルを変えた「3つの新常識」
では、具体的に手続きの何が変わったのでしょうか?
かつては「事後届出(開設後10日以内)」が基本でしたが、現在は全く異なるフローが求められています。
① 「6ヶ月前」の事前届出義務化
これが最大のトラップです。
外来医師多数区域で開業する場合、原則として「開設の6ヶ月前」までに都道府県知事に対して診療所の開設届出を行う(あるいは意向を伝える)ということになるかもしれません。
6ヶ月前といえば、物件の賃貸借契約を結ぶにあたりかなりスケジュールが難しくなります。フリーレントも6ヶ月というのはなかなか難しいですよね。
この段階で、どのような医療を提供するのか、具体的なプランを行政に提示しなければなりません。「まずは物件を借りて、内装工事が終わってから考えよう」という順序では、手続きが間に合わないリスクがあります。
② 「協議の場」への参加
事前届出を出すと、次は都道府県が主催する「地域医療構想調整会議(協議の場)」への参加が必要となる案が出ています。
そこには、地域の医師会代表、病院経営者、行政担当者などが集まっています。
先生はそこで、
- なぜ、あえて医師が多いこの地域で開業する必要があるのか?
- この地域の医療に、どのような新しい価値を提供できるのか?
ということを説明し、理解を得なければならなくなるかもしれません。
既存のクリニック経営者からすれば、競合が増えるのは面白くない話です。
厳しい質問が飛んでくることも覚悟しなければなりません。
③ 「地域医療への貢献」の要請
協議の結果、都道府県知事から以下のような機能を持つよう「要請」されることがあります。
- 夜間・休日診療の実施
- 在宅医療(訪問診療)への対応
- 新興感染症発生時の対応(発熱外来など)
- 難病患者や障害者の受け入れ
これらは口約束ではありません。
要請に応じる旨を文書で回答し、その内容は公表されることもあります。
もし「やりたくない」と拒否して開業することも制度上は可能ですが、その場合、「地域医療への貢献の意思がない医療機関」として公表されたり、特定の補助金対象から外れたりと、事実上のペナルティを受ける可能性もあり得ます。
規制を甘く見るとどうなる?独自に進めてハマる「落とし穴」
「そうは言っても、最終的には開業できるんでしょう?」
そう楽観視するのは危険です。手続きの遅れは、経営数値にダイレクトに跳ね返ってくるからです。
融資実行と空家賃の二重苦
銀行の融資実行は、多くの場合「行政の許認可(開設許可や届出受理)」が条件となります。
もし協議が長引き、保健所の手続きが遅れれば、融資も遅れます。
しかし、物件の賃貸借契約は待ってくれません「開業していないのに、家賃だけ毎月数十万〜数百万円が出ていく」という、経営者として最も避けたい事態に陥ります。人件費も同様ですね。
2027年以降のさらなる規制強化
さらに、現在は「2027年問題」とも言われる規制強化の議論が進んでいます。
例えば、「外来医師多数区域での新規開業者は、保険医療機関の指定更新を通常の6年ではなく3年ごとの審査にする」といった案や、「管理者(院長)になるには一定期間の病院勤務経験を必須とする」といった案も浮上しています。
ルールは年々複雑化し、厳格化しています。ネット上の数年前の情報や、先輩開業医の「昔はこうだった」というアドバイスを鵜呑みにするのは致命的です。
難化する開業手続きの突破口!「医療専門」行政書士を味方につけるメリット
このように、現代のクリニック開業は、単なる「届出」から、高度な「行政交渉」へと変質していきます。
だからこそ、私は声を大にしてお伝えしたいのです。
「この戦いを、先生お一人で、あるいは内装業者さんの片手間のサポートだけで乗り切ろうとしないでください」と。
もうそういう時代ではありません。
ここで、医療許認可法務を専門とする行政書士の出番となります。
メリット①:行政との「共通言語」で交渉できる
医療許認可法務を専門とする行政書士は、行政手続きのプロフェッショナルです。
都道府県や保健所の担当者が何を懸念しているのか、どのような書類(エビデンス)を出せばスムーズに審査が進むのか、彼らの「言語」を熟知しています。
「協議の場」で求められる資料作成においても、地域の医療需給データを基にした論理的な説明資料を作成し、先生の開業の正当性を強力にバックアップします。
ただ、残念ながら行政書士の職域はあまりに広く、通常は車庫関係や建設業、在留資格などが行政書士の主戦場となっていることや、医療法務は非常に複雑であることから、経験豊富な行政書士は少ないのが現状です。
よきパートナーを見つけ、社労士の労務顧問、税理士の税務顧問と同様に、許認可法務顧問として医療専門の行政書士を側に置いておくことをおすすめします。
メリット②:スケジュールの完全管理
「6ヶ月前届出」を起点に、保険医療機関指定申請、施設基準・公費医療の申請など、開業までには数十種類の期限が存在します。
医療専門の行政書士はこれらをパズルのように組み合わせ、「最短での開業(保険診療開始)」を実現するための工程表を描きます。
先生は、スタッフの採用や内装の打ち合わせなど、院長にしかできない仕事に専念していただけます。
メリット③:開業後の「守り」も万全に
開業はゴールではありません。
例えば医療法人であれば毎年、事業報告書や経営状況報告の提出義務がありますし、分院開設ごとに定款変更など何かあるごとに行政手続きが必要になります。
かつては顧問税理士さんが税務顧問のサービスの一環で行っていたり、ディーラーさんがサービスの一環でやっていたという時代もありますが(行政書士登録をせずに行うのは違法ですが)、現代は複雑化しそれでは間に合わなくなっています。
開業時から関わっている行政書士は、クリニックの「法務部」のような存在です。
将来の分院展開や医療法人化の際にも、過去の経緯を踏まえた最適な提案が可能になります。
まとめ:規制は「排除」ではない。「地域に選ばれるクリニック」への第一歩
「開業規制」という言葉はネガティブに響きますが、見方を変えれば、「地域から真に必要とされるクリニックしか生き残れない時代」が来たとも言えます。正常化したとも言えるかもしれません。
行政が求めているのは、「不足している医療機能」を補ってくれるパートナーです。
事前にしっかりと行政と対話し、地域のニーズを汲み取った開業計画を立てることは、結果として早期の集患や地域連携のスムーズな立ち上がりにつながります。
そのための準備は、非常に専門的で労力を要するものです。
だからこそ、行政手続きのスペシャリストである医療専門の行政書士を頼ってください。
当事務所では、最新の医療法改正や地域の規制動向を常にアップデートし、先生の「理想の医療」を「現実の形」にするためのサポートを行っています。
- 自分の開業予定地は規制の対象なのか?
- 今のスケジュールで間に合うのか?
少しでも不安を感じたら、物件契約の判子を押す前に、まずは一度ご相談ください。
戦略的な行政対応で、先生の開業を成功へと導きます。
弊社の拠点は東京の新宿区四谷ですが、全国にクリニックのお客様がおり、全国対応です。長年医療専門に特化してきたノウハウがありますので、ぜひお気軽にご相談ください。
【保存版】クリニック開業規制に関するよくある質問(FAQ)
記事の締めくくりとして、開業を検討中の先生からよくいただく質問をQ&A形式でまとめました。
ご自身の計画に当てはまる項目がないか、ぜひチェックしてください。
Q1. 美容皮膚科や自由診療メインのクリニックも、この規制の対象になりますか?
はい、原則として対象になります。
「自由診療のみ」であっても、医療法上の「診療所開設届」を提出する以上、外来医師多数区域の規制(届出・協議)の対象となります。
ただし、保険医療機関の指定を受けない(保険診療を一切行わない)場合、保険医療機関としてのペナルティ(指定更新期間の短縮など)は関係ありませんが、地域医療への貢献要請や、行政窓口での指導は行われます。
「美容だから関係ない」と自己判断せず、必ず事前に確認が必要です。
Q2. 親のクリニックを継ぐ「事業承継」の場合も、6ヶ月前の届出や協議が必要ですか?
ケースバイケースですが、免除される可能性は高いです。
一般的に、既存の診療所をそのまま引き継ぐ(開設者が変わるだけの)事業承継の場合、地域医療への影響が変わらないため、協議の場は省略または簡略化される傾向にあります。
しかし、承継を機に「移転」したり、「診療科目を大幅に変更」したりする場合は、実質的な新規開業とみなされ、規制の対象となる可能性があります。
この線引きは自治体によって異なるため、事前の確認が不可欠です。
Q3. 「地域医療への貢献」の要請に応じないと、開業できないのですか?
開業自体は可能ですが、大きなデメリットが生じる可能性があります。
現行法では、要請に応じないことを理由に開業届を受理しない(拒否する)権限までは行政にありません。
しかし、協議の結果「合意が得られなかった」として、以下の措置が取られる可能性があります。
- 公表: 「地域医療への協力意思がない医療機関」として県や市のホームページで公表される。
- 保険指定の期間短縮: 通常6年の更新期間が短縮される等の措置(検討中含む)。
- 補助金対象外: 特定の公的補助金が受けられなくなる。
- 地域での評判や医師会との関係性を考えると、事実上「無視して開業」は茨の道と言えます。
Q4. 規制が厳しくなる「2025年問題」「2027年問題」とは具体的に何ですか?
段階的にハードルが上がっていくスケジュールのことです。
2025年現在: 既に多くの都道府県で、外来医師多数区域における「6ヶ月前の事前届出」や「協議の場」の運用が始まっています。
2027年頃(予定): さらに法改正が進み、「管理者要件(院長になるための要件)」として、一定期間(例:3年以上)の特定病院での勤務経験が義務化される議論が進んでいます。
つまり、「来年開業するか、3年後にするか」で、必要な資格や手続きの難易度が劇的に変わる可能性があります。
Q5. 自分だけで手続きを行う自信がありません。行政書士に頼むと何をしてくれますか?
「時間の創出」と「行政との交渉代理」を行います。
ただし、お医者さんも内科や外科などそれぞれ専門があるように、行政書士も専門分野がそれぞれ違いますから、医療許認可法務に明るい専門家でないと難しいことが多いです。
医療の許認可は複雑で、単なる書類作成代行ではありません。
私たちは以下のサポートを行います。
- エリア調査: 開業予定地が「外来医師多数区域」に該当するか、最新の指標で調査します。
- ロジック構築: 「なぜこの場所で開業が必要か」を行政や医師会に納得させるための説明資料を作成します。
- スケジュール管理: 6ヶ月前の届出から遡及申請まで、最短で保険診療を開始するための工程を管理します。
先生は面倒な手続きから解放され、診療方針の策定やスタッフ採用に専念していただけます。
医療法人の設立・運営面についてサポートします!
医療許認可の専門家として17年。医療許認可1,500件以上の実績。
医療法人化または一般社団法人による診療所開設、
分院開設、医療法務顧問、補助金、助成金支援までサポートしております。
医療法人の専門家にお気軽にご相談ください