一般社団法人で診療所を開設するときに注意すべきこと
一般社団法人による診療所開設
2025/3/3
2025/3/3

この記事の監修

行政書士法人RCJ法務総研 代表 / 行政書士
株式会社リアルコンテンツジャパン(経済産業省認定経営革新等支援機関) 代表取締役
古川 晃
医療許認可の専門家として17年、医療法人設立・分院開設・合併・解散・一般社団法人による診療所開設など医療許認可1500件以上 クリニック様の助成金・補助金・融資などの資金調達100億円以上の支援実績
近年、医療機関の開設形態として「一般社団法人」を活用するケースが増えています。
一般社団法人は、医療法人とは異なり、設立自体は法務局への登記だけで完結し、柔軟な運営が可能な点が特徴です。
しかし、一般社団法人で診療所を開設するには、ただ法人を設立すれば良いというわけではなく、各管轄の保健所に診療所の開設許可を得る必要があり、これがなかなかに難易度が高く断念された方も多いと聞きます。
診療所を開設し運営していく際には、医療法や税務、運営のルールなど、押さえておくべきポイントがいくつもありますので、簡単に進めることはできません。
本記事では、一般社団法人で診療所を開設する際の注意点を詳しく解説します。
これから診療所を開設したいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
一般社団法人で診療所を開設するメリット
まずは一般社団法人で診療所を開設するメリットについてご紹介します。
設立が容易で柔軟な運営が可能
一般社団法人は、医療法人と異なり、都道府県知事の認可が不要で、設立までの手続きが比較的簡単です。
医療法人の設立には半年以上かかるのが一般的ですが、一般社団法人は定款を作成し、法務局で登記することで、数週間から1ヶ月程度で設立できます。
ただし、設立しただけでは診療所の開設はできません。
あくまで設立そのものは登記だけで良い、というだけです。
別途、各管轄の保健所に診療所の開設許可を得ることが必要です。
許可を得るには、大きくわけて、ヒト・モノ・カネが揃っているかを根拠資料をもとに、「非営利性の原則」と「永続性の原則」の観点からしっかりと審査をされ認められてようやく許可証の発行ということになります。
医療法人は定款変更にその都度認可が必要であったり、毎年の事業報告や経営状況報告が義務とされているなどの規制がありますが、2025年3月時点では一般社団法人には都道府県の関与があるわけではないので、その点は柔軟な運営が可能です。
一例ですが、
- 医療法人が行える事業は、本来業務(医療)・附帯業務・附随業務に限定されますが、一般社団法人はそれに限定されません。
- 医療法人の代表理事は原則医師または歯科医師とされていますが、一般社団法人にはそのような規定はありません。
- 医療法人の分院の管理者については理事長になることが原則ですが、一般社団法人にはこれもそのような規定はありません
- 医療法人には監事が必要ですが、一般社団法人にはこれもそのような規定はありません。
一例ではありますが、これらのように各種の規制がないことで運営が柔軟に行えると言われています。
ただし、管轄する保健所によっては、これらの医療法人特有の規定をもとに、同様に定款に定めるよう求めてくる場合もあります。
もちろん、法律に明確に規定がないものを強要される理由はないと争うこともできますが、その分交渉が長引いたりもするので、争うず従ってしまった方が早い場合もあります。
一度拗れてしまうと後でリカバリーするのが難しくなります。
このあたりについては非常に専門性が高くなるので、医療許認可を専門とする行政書士の中でも、一般社団法人による診療所開設を熟知した行政書士に事前に相談することをお勧めします。
一般社団法人で診療所を開設する際の注意点
診療所開設主体としての要件を満たすこと
一般社団法人でも診療所は開設可能ではありますが、許可が必要です。主に下記2つの視点から審査をされます。
- 非営利性の原則
- 永続性の原則
①非営利性の原則
非営利性の原則とは、営利を目的とせず利益を分配しないことを意味します。
ここでいう非営利というのは、株式会社などのように、利益を出資者に分配する(株主配当)ような行為を禁止することを意味します。
出資だけして配当を貰い続けたい、というような投資家の介入は難しいということです。
定款に下記を定め、運営上も遵守する必要があります。
- 剰余金の分配を行わないこと(定款記載)
- 解散時の残余財産を他の非営利法人や国・地方公共団体に帰属させること(定款記載)
- 理事の親族が1/3以下であること(定款記載の義務はないが、実体的に常に要件を満たすこと)
この剰余金の分配というのは、明らかな分配行為だけにとどまらず、実質的に分配のような行為(配当類似行為)にも拡大して禁止される運用になっています。
例えば、MS法人などの営利法人との取引がある場合に、その営利法人と診療所経営を行う一般社団法人との間で役員の兼務状態がある場合などは、配当類似行為として取引の禁止や役員の変更を指導されたり、悪いと不当な金銭の授受として返還、精算を求められることもあります。
どこまでが配当類似であり、非営利性に反するかはかなり微妙なケースもあるので、事例を熟知した医療の許認可に詳しい行政書士に相談することをお勧めします。
②永続性の原則
法人化して、安定した経営をすることができるかを審査します。
潤沢な運転資金があることや、きちんと黒字で利益が出て潰れることがないということを、過去の実績として確定申告書を見たり、未来の事業計画書を見たりしながら審査します。
節税対策をしすぎで利益が全然出ていなかったり、売り上げが少なかったり、現預金があまりなかったり、事業計画の信憑性が低い時などは許可が難しくなります。
デメリットも理解しておく
何事においても、メリットデメリットはあって、一般社団法人による診療所開設についてもやはりデメリットはあります。
- 金融機関からの融資が医療法人よりは受けづらい場合がある(金融機関による)
- 各保健所によって診療所開設許可の審査の難易度やスケジュールが大きく異なる
- 今後、医療法人同様の規制を設けられる可能性はある(具体的にいつ何をという話はまだ出ていない)
- そもそも熟知した専門家が少なく、誰に相談していいかわからない。
一般社団法人による診療所開設は平成20年12月施行の「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」によってできるようになったため、医療法人よりも歴史が浅く、まだまだ専門家が少ないのもありますが、行政側も詳しくわかっていないのが現状です。
都心部の保健所は事例が増えてきてスムーズなことがありますが、まだ前例がない保健所については前例がないことは極力やりたがらないのがお役所の慣習としてありますから、事前に専門家に相談をしてしっかりと準備をして臨みましょう。
まとめ
一般社団法人で診療所を開設することには、設立のしやすさや経営の自由度の高さといったメリットがある一方で、医療法人とは異なるデメリットもあります。
開設を検討する際には、以下のポイントを押さえておくことが重要です。
1. 法人の定款に医療提供を目的とすることを明記する
2. 非営利型法人として認められるよう要件を満たす
3. 開設許可申請の準備をしっかり行い、専門家と相談の上、保健所と事前相談する
一般社団法人による診療所の開設には多くのハードルがありますが、適切な準備と計画を立てることで、スムーズな運営が可能になります。
ぜひ詳しい専門家とともに慎重に検討し、成功に向けた一歩を踏み出してください。
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