医療法人に必要な監事とは?どんなことをするのか?

医療法人化

2023/3/16 2023/3/17

この記事の監修

古川 晃

行政書士法人RCJ法務総研 代表 / 行政書士 
株式会社リアルコンテンツジャパン(経済産業省認定経営革新等支援機関) 代表取締役

古川 晃

医療許認可の専門家として17年、医療法人設立・分院開設・合併・解散・一般社団法人による診療所開設など医療許認可1500件以上 クリニック様の助成金・補助金・融資などの資金調達100億円以上の支援実績

医療法人を設立する時や、設立後法人運営を続けていく中で、度々出てくるこの「監事」という役割。一体どういう役割で、どんな義務や責任があって、どんな人を選べばいいのかイマイチよく分からない。そんな時ありませんか?

医療法人の役員の中でも一番わかりづらいのに、毎年都道府県庁に届け出なくてはいけない監事監査報告書という書類を作るという重要な役割を担っています。

中には、適当に選んでしまってなんとなくそのままにしてるという法人様ももしかするとあるのではないでしょうか。しかし実は監事には重い責任があり大変なことになるケースもしばしばあります。

今回は、そんな大事な役割を果たす医療法人の漢字について解説していきます。なお、医療法人には様々な種類がありますが、今回は一般的に一番多い医療法人社団についての解説となります。

目次[非表示]

1 医療法人の監事とは

まず、前提として医療法人は必ず役員の中に監事を1人以上を置かなくてはなりません。原則として任期は2年です。

医療法人の監事の職務については下記のように法令により規定されています。

  • 医療法人の業務を監査すること
  • 医療法人の財産の状況を監査すること
  • 医療法人の業務又は財産の状況について、毎会計年度、監査報告書を作成し、当該会計年度終了後三月以内に社員総会又は評議員会及び理事会に提出すること
  • 監査の結果、医療法人の業務又は財産に関し不正の行為又は法令若しくは定款若しくは寄附行為に違反する重大な事実があることを発見したときは、これを 都知事、社員総会若しくは評議員会又は理事会に報告すること。

つまり、大まかにいうと医療法人の監事というのは、

  • 医療法人の経営や会計、お金の動きを監査する役割
  • それを毎年都道府県庁に報告する役割

を持っているということで、役目としてはお目付け役のようなものです。

医療法人は、永続性ならびに非営利性を求められますから、健全な経営、適正な資金の使われ方がされているかチェックをする必要があります。(医療法第40条の2、第7条第6項、第54条)

医療法人の理事長や理事など経営を行う人々の親族や、医療法人と取引があったり利害関係がある人は、往々にして忖度が働いたり便宜を図ってしまったりして公正な監査をすることができない可能性があります。監査する側と監査される側が密接な関係があると、人間ですからそういうことが往々にして起こりがちですから、一定の基準を設ける必要があります。

このような背景から、監事になれる人には制限があります。

では、どういう人が監事になることができて、どういう人は監事になることができないのか解説していきます。

2 監事になれる人 なれない人

では、一体どんな人を監事に選任すれば良いのでしょうか。

答えは一つで、「欠格事由に該当しない人」つまり、こういう人はなれませんよという以下の規定に該当しない人は監事になれるということになります。ですからまず監事になれない人はどういう人かを見ていきましょう。

※都道府県により解釈が異なる場合があります

  1. 当該医療法人の理事又は職員( 法第46条の5第8項)
  2. 医療法人の理事(理事長を含む)の親族(民法第725条の規定に基づく親族)
  3. 医療法人に拠出している個人(医療法人社団の場合)
  4. 医療法人と取引関係・顧問関係にある個人、法人の従業員
  5. 法人
  6. 成年被後見人または保佐人
  7. 医事に関する法律で政令で定めるものの規定により罰金以上の刑に処せられその執行が終わり又は執行を受けることがなくなった日から起算して2年を経過しないもの
  8. 前号に該当する者を除くほか、禁固刑以上の刑に処され、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなるまでの者

原則として、これらに該当する方は医療法人の監事になることはできません。ちょっと分かりづらい箇所もありますので、一つ一つ見ていきましょう。

①監事になれない人 当該医療法人の理事又は職員

医療法人の理事(理事長含む)や従業員は監事になることができません。理由は、医療法人の内部の関係者が監事として運営や会計を監査しようとしても、忖度や便宜が生まれる可能性が高いからです。監査する側と、監査される側が同じ人だと公正な監査はできなそうですよね。例えば、刑事事件の被疑者が自分を取り調べるようなことがあったら、無罪放免にしてしまったりすることもできてしまう、そういうイメージです。

②監事になれない人 医療法人の理事(理事長を含む)の親族(民法第725条の規定に基づく親族)

医療法人の理事(理事長を含む)の親族は監事になることができません。理由は同様に親族同士も感情が入ったりして公正な監査をすることができない可能性が高く、相応しくないからです。

ここで言う親族とは「6親等以内の血族、配偶者、3親等以内の姻族」となります(民法第725条)。

この規定はちょっとわかりづらいですが、厚生労働省ホームページには次のような参考資料がありますのでこちらを見て頂くと分かりやすいです。

厚生労働省 親族の範囲についての参考資料

まず、前提として血族とは血が繋がっている人々との関係のことで、姻族とは血は繋がっていないが婚姻(結婚)によって親族になった人々との関係のことを言います。この図を見て頂くと分かりますが、自分からスタートして1つずつ順を追って関係を移動するごとに1親等がプラスされていきます。父母なら1親等、祖父母なら2親等、ということですね。

自分の兄弟は、自分から生まれているわけではなく、自分の父母から生まれていますので、一度父母を経由して数えることになりますから、2親等になるという考え方です。

その上で、医療法人の監事は、

  1. 6親等以内の血族
  2.  配偶者
  3. 3親等以内の姻族

これらの人々はなることができないとされていますから、まず当然に理事長や理事の配偶者は監事になることはできません。

さらにこの図を見ると6つ上の尊属(ご先祖様)や、6つ下の子孫(毘孫)まではNGで、さらにその先でないとNGということになりますから、父母や祖父母などの上と子供や孫などの下の関係はNGだと思って良いでしょう。

少し横を見てみると、従姪孫や玄姪孫など普段聞いたことがないような遠い親戚もNGということになりますから、基本的に血族はNGと考えて良いでしょう。

姻族を見ていくと、3親等以内の姻族はNGですから、自分の配偶者の叔父叔母まではNGですがその先はOKですし、自分の配偶者の甥姪まではNGですが、その先はOKです。

ご覧の通り、「6親等以内の血族、配偶者、3親等以内の姻族」と言うのはかなり広範囲になりますので、原則として監事は親族以外の方から選ぶことを検討した方が良いでしょう。

③監事になれない人 医療法人に拠出している個人

医療法人にお金を出している人も、やはり同様に公正な監査ができない可能性が高いのでNGです。

④監事になれない人 医療法人と取引関係・顧問関係にある個人、法人の従業員

当該医療法人と何がしかの取引関係や契約関係がある個人や法人の従業員だと、利害関係がありますから当該医療法人に忖度したり便宜を図ったりして公正な監査ができない可能性が高いのでNGとなります。

例えば、医療法人に医療機器を買って頂いている医療機器メーカーや薬を買って頂いている製薬会社などの営業マンを想像して頂くと分かりやすいのですが、例えば理事長先生に監事になってくれ、適当にハンコ押してくれと頼まれたら断りづらいし当該医療法人に不利益になるようなことは発言しづらいということは想像できると思います。つまり監事として相応しくないためNGとなります。

  • 取引のある医療機器メーカーや製薬会社、医療材料商社などの従業員
  • 業務委託で来てくれているDr.
  • 契約している生命保険会社の営業マン
  • 取引がある税理士や社労士、弁護士、行政書士などの士業
  • 取引があるホームページ業者や広告業者

などがよく候補に上がりますが、残念ながらこれらの方々は監事になることができません。

⑤監事になれない人 法人

法人は監事になることができず、自然人でなくてはなりません。つまり○○株式会社などのような法人ではなく、人間であることが求められます。

⑥監事になれない人 成年被後見人または被保佐人

成年被後見人とは、常に判断能力に欠けている方で家庭裁判所に決定されている方を言います。被保佐人とは判断能力が不十分な方で家庭裁判所に決定されている方を言います。これは例えば、アルツハイマーや認知症などにより判断能力に不安がある方が不利益を受けないように守り保護するための制度ですが、これに該当する方は医療法人の監事になることはできません。

⑦監事になれない人 医事に関する法律で政令で定めるものの規定により罰金以上の刑に処せられその執行が終わり又は執行を受けることがなくなった日から起算して2年を経過しないもの

医療法や医師法、歯科医師法などの医事に関する法律で政令に定める規定に違反したことで罰金刑以上の刑に処されたことがある方は、その刑が完了したか執行猶予が終わった日から2年間は監事になることができません

⑧監事になれない人 前号に該当する者を除くほか、禁固刑以上の刑に処され、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなるまでの者

ちょっと分かりづらい表現なのですが、何がしかの違反をして禁固刑以上の刑に処された方は、その刑が完了したか執行猶予が終わるまでは監事になることはできません。⑦の医事関係の違反をして禁固刑以上に処せられた方は刑や執行猶予が完了してから2年間は監事になれませんが、それ以外の違反で禁固刑以上に処せられた方は刑や執行猶予が完了した時点で監事になることができる、という意味合いです。医療法人に関わるわけですから、医事関係で刑に処された方は少し経過観察しないといけない、という趣旨ですね。

⑨監事になれる人

では、一体誰が監事になれるのかというと、これまで説明した①から⑧までに該当しない人、ということになります。結構監事になれない人の範囲が広くて誰を選んだらいいんだと思われる方も多いと思いますが、おっしゃる通りでこの監事選びがネックになってお困りのご相談が多くあります。

具体的にどのような人を監事に選任しているか事例を挙げると、全て取引関係がなくかつ⑥⑦⑧に該当しないことが前提ですが

  • 理事長先生のご友人
  • 医学部、歯学部時代の先輩、同級生、後輩
  • Dr.仲間

これらの方々が監事になるケースが多いです。

監事選びに時間がかかって医療法人設立の申請期限に間に合わないということにならないように、早めに検討をしておきましょう。

身近に引き受けてくれるような方がいらっしゃると良いのですが、なかなかいらっしゃらなかったり、どうしたらいいか分からず迷ってしまった場合は、お近くの経験豊富な医療法務専門の行政書士等に早めにご相談されることをお勧めします。

3 監事の責任

監事の重要な役割は、

  • 医療法人の業務や財産状況を監査すること
  • 会計年度ごとに監事監査報告書を作成すること
  • 不正があるときは都道県知事や社員総会、理事会に報告をすること

ということになります。医療法人が適正に運営されていれば問題ありませんが、その場合でも会計年度ごとに必ず監事監査報告書を作成する義務があります。

監事が負う責任としては、

①法人に対する損害賠償責任(任務を怠ったことにより生じた損害を賠償する責任)(医療法第47条1項)

監査を怠ったことによって医療法人に損害を与えた場合が該当します。

②第三者に対する損害賠償責任(職務につき悪意・重大な過失があった場合に第三者に生じた損害を賠償する責任)

わざとやったり重過失があったことで第三者に損害を与えた場合が該当します。

4 監事監査の対象

監事が行う監査範囲は以下の通りです。

①業務監査

  1. 規定
  2. 事業(活動)の概要 
  3. 役員、理事会、評議員会に関する事項
  4. 人事・労務管理 
  5. 施設・事業の運営管理
  6. 医療・介護サービスの質の向上のための取組み

 

②会計監査

  1. 会計帳簿の作成状況
  2. 予算
  3. 出納・財務
  4. 契約状況
  5. 資産の管理
  6. 決算書(財務諸表)・附属明細表・財産目録の作成状況
  7. 決算書(財務諸表)のチェック

5 監事の責任の免除

監事の責任について述べましたが、以下の方法によりその責任を全部又は一部を免除することができます。これをしておいてあげないと、責任ばかり重くて誰も監事なんてやりたがらないということにもなりかねませんから、やっておくことをお勧めします。医療法務に詳しい方がいないところはほとんどやっていないのが実情です。

①社員の同意による免除 (医療法47条の2第1項等)

役員の医療法人に対する損害賠償責任は、社員全員が同意すれば免除することができます。社員全員のため、誰か一人でも同意しなかった場合は免除できません。この同意は実際に損害賠償責任が生じた後に行われることが必要で、事前に役員の責任を全て免除する規定を作ることはできません。

②社員総会の決議による一部免除(医療法47条の2第1項等)

役員の医療法人に対する損害賠償責任は、役員が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がない場合、一定の金額を限度として社員総会の決議によって免除できます。しかし、上記同様に事前に役員の責任を一部免除することはできません。

前項の社員全員の同意による免除と、この社員総会の決議による一部免除の違いは、前項は社員全員が同意することで責任を全部免除することができるのに対し、この社員総会の決議の場合は社員全員でなく過半数で決議できますから、全部免除ではなく一部免除することができるという差になります。どちらの方法も事前に行うことはできず責任が生じた後に行うことができるのは同じです。

③定款又は寄付行為の規定による一部免除(医療法47条の2第1項等)

役員の損害賠償責任につき、役員が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がない場合において、必要であると認めるときは、前項2の金額を限度として理事会の決議により免除できる旨を事前に定款に定めることができます。この方法であれば免除の範囲に限度がありますが、事前に役員の責任を免除できますから監事としては安心です。

④責任限定契約(医療法47条の2第1項等)

役員(理事長や職員兼務の理事等は除く。)の損害賠償責任について、当該役員が職務を行うにつき善意でかつ重過失がない場合に、一定の金額を限度とする旨の契約を締結できる旨を定款に定めることができます。免除の範囲や対象者に限定があるものの事前に役員の責任を免除することができますから監事としては安心です。

6 監事の報酬

特段の定めはありませんので、監事が納得していれば無報酬でも大丈夫です。実務上は無報酬であることが多いようです。もちろん報酬を払っても大丈夫です。役員報酬という形で年額を定めて支払います。

7 監事を変える際の注意点

医療法人は、役員(理事・監事)に変更があった場合は、新たに就任した役員の就任承諾書及び履歴書を添付して「役員変更届」の提出が必要です。(医療法施行令第5条の13)

また、監事を辞めてことになった方の理由を説明する書類として、下記のような書類を添付します。

  • 辞任届(任期満了や自ら辞める場合)
  • 死亡診断書、役員死亡届など(死亡の場合)
  • 社員総会議事録(解任の場合)

本人の合意があり辞任届が取れれば問題になることはありませんが、解任の場合は注意が必要です。解任というのは一方的にクビにするような場合ですので、任期中に解任する場合、きちんと手順を踏まず、手続きに瑕疵があると解任に正当な理由がないとして監事から訴えられることもあり得ます。(医療法46条の5の2第2項)

ですから、辞めて頂く際には極力話し合いの上、辞任届を作成して頂くことをお勧めします。

8 まとめ

いかがでしたでしょうか。なかなか普段の生活では聞き馴染みのない監事で、医療法人設立の時などに必要であることを知ってお困りになった先生も多くいらっしゃるかと思います。でも、この記事の内容を頭の片隅に残して頂き、何度でもご覧頂きお役立て頂けましたら幸甚です。

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