医療法人の役員報酬の決め方は?上限はあるの?

医療法人化

2023/10/5 2023/10/18

この記事の監修

古川 晃

行政書士法人RCJ法務総研 代表 / 行政書士 
株式会社リアルコンテンツジャパン(経済産業省認定経営革新等支援機関) 代表取締役

古川 晃

医療許認可の専門家として17年、医療法人設立・分院開設・合併・解散・一般社団法人による診療所開設など医療許認可1500件以上 クリニック様の助成金・補助金・融資などの資金調達100億円以上の支援実績

役員報酬の決め方は?上限はあるの?

個人医院の時は、売り上げから諸々の経費を除いて残った利益が院長先生の所得という計算の仕方でしたが、医療法人となると今度は理事長という役割になり、実質的に創業者である院長先生であっても役員の1人ということになります。そして役員の収入は、役員報酬という形で自由に設定し支給することになります。

そうすると今度は逆に自由であるがゆえにいくらに設定すればいいのか、という悩みが生じます。今回は、この役員報酬の決め方や、ルール、注意事項について解説します。

 

医療法人の役員報酬と従業員の給与の違い

医療法人の役員報酬は、従業員の給与とは違い以下のような税務上のルールが設けられています。

  • 原則、事業年度を通じて一定額にすること。(定期同額)
  • 金額を変更するときは、事業年度開始日から3ヵ月以内に行う。
  • 役員報酬を変更するには、社員総会を開催して決定し、変更についての社員総会議事録を作成する。
  • 事業年度開始日から4ヵ月以上経過した後に変更した場合、変更した分の報酬は損金にできない。ただし、役員の地位や職務内容を変更した場合や、経営状況が著しく悪化し、第三者との関係にも影響を与える場合を除く。
  • 賞与を支払う場合は事前に支払う金額と時期を決定し「事前確定届出給与」という書類を税務署に提出する必要がある。

このように、役員報酬の金額は自由に決められるとはいえど、決め方や変更の仕方にルールが決められています。

つまり、従業員のインセンティブのように業績が良かった分だけ支給するというような調整ができないということです。なぜなら、いつでも自由に変えられることにしてしまうと、法人の利益を自由に減らしたり任意に利益の調整ができてしまうので、それを制限する必要があるからです。

また、明確な金銭だけでなく下記のような経済的利益をもたらすものも役員報酬としてみなされる場合があります。

  • 役員に無料で資産を贈与
  • 相場よりも極端に低い金額で役員に譲渡された資産
  • 役員に対する無利息での金銭の貸し付けや返済の免除
  • 役員の家賃の免除分や生命保険料の肩代わり分

このルールに反して適当に行なってしまうと、支払われた金額が損金として認められず税務上大きな損をすることにもなります。役員報酬を決定する際には、事前に税務上のルールをしっかりと確認し、税理士さんと相談しながら必要に応じ税務署への届出を忘れないようにしましょう。

さらに、これらの経済的利益をもたらすもの(特別な利益)については、税務上の問題とは別に医療法上問題が生じます。この「税法上問題がなくても医療法に抵触するものがある」ということをあらかじめ理解しておかないと大変なことになります。

というのも、医療法人は非営利性の観点から、剰余金の配当を禁止されています(医療法第54条)。ここで言う非営利とは、単に医療法人が利益を生むことを指すのではなく、医療法人が生んだ剰余金を関係者に配当してしまうことを指し、医療法はこれを固く禁止しています。近年行政はこの配当の禁止をかなり広く解釈しており、金銭的な配当でなくても経済的利益をもたらすもの(特別な利益)も「配当類似行為」として厳しく否認する傾向にあります。「配当類似行為」とみなされた場合、その分の利益を医療法人に返還するよう指導されます。

特に医療法人から理事長に金銭を貸し付けたり、私用の車を医療法人で買ったり、役員を兼務しているMS法人に利益を流したり、近年は配当類似行為を厳しくチェックされるようになりました。

医療法人のお金の使い方については、税務上は問題がなくても、医療法上は問題があるということが頻発していて返還を指導されるケースが近年多発しています。これを解消しないままに分院用のテナントを契約してしまって分院開設の定款変更の認可を得ることができず、分院が開設できずその間空家賃が生じてしまうという事例が多くあります。

医療法を理解せず税法だけで処理してしまうと大変危険です。

税法のみならず医療法にも精通している税理士、もしくは医療法に精通している行政書士を身近に置いて事前に相談しながら慎重に進めていきましょう。

医療法人の役員報酬の上限は?

医療法人の役員報酬については、上限は明確に決められていませんので、原則として自由に金額を設定することができます。ただし、「不当に高額にならないよう支給基準を設けること」という指導がされています。さらに税務上も不相当に高額であると損金として認められないという場合もあります。

医療法人の役員報酬の妥当な金額を算出するために決まった算定式はありません。医療法人の永続性の観点から、資金繰りに困ることのないように医療法人に利益を潤沢に残してあることが原則としつつ、その上で判断基準は理事長や役員がいくら必要か、それぞれの懐事情に合わせて設定することになります。

例えば一例ですが、「前年の利益額から2か月分の運転資金を引いた額」の範囲内で全役員の役員報酬の総額を決めているというところも多くあります。これは来期もおそらく同じくらいの収支であるという想定と、その上で最低2ヶ月分は運転資金を残しておこう、という考え方からです。多めに医療法人に利益を残しておきたければ役員報酬をその分減らし、ご家庭の生活費や学費などが必要であればその分考慮するなど懐事情と相談しながら決定していきます。

一般的には、個人より法人の方が税率が有利であるため、個人の役員報酬を増やせば増やすほど税的には不利にはなります。かといって、医療法人にお金を貯めてしまっても、私的に自由に使うことはできませんから、今後の人生計画と事業計画とを照らし合わせて公私のバランスを見ながら決めていきましょう。

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