【東京都版】医療法人の「分院開設」完全ガイド|失敗しない定款変更スケジュールと管理者選びの落とし穴
分院開設
2025/12/11
2025/12/11
この記事の監修
行政書士法人RCJ法務総研 代表 / 行政書士
株式会社リアルコンテンツジャパン(経済産業省認定経営革新等支援機関) 代表取締役
古川 晃
医療許認可の専門家として17年、医療法人設立・分院開設・合併・解散・一般社団法人による診療所開設など医療許認可1500件以上 クリニック様の助成金・補助金・融資などの資金調達100億円以上の支援実績
日々の診療、誠にお疲れ様です。
本院の経営が軌道に乗り、患者様の数も安定してきた今、「次のエリアへ進出したい」「分院を作ってさらに展開したい」とお考えの理事長先生も多いのではないでしょうか。
分院展開は、医療法人にとって収益の柱を増やし、法人全体のブランド力を高めるための「第2の創業」とも言える重要なフェーズです。
しかし、ここで一つ注意が必要です。
「医療法人の分院開設」は、「個人のクリニック開業」とは全く異なるルールで動いています。
特にここ東京都においては、審査基準が非常に厳格で、手続きの順序を一つでも間違えると、「内装工事が終わっているのにオープンできない」「数ヶ月間、保険診療ができない」という致命的な事態に陥ります。
全国でも極端に審査が厳しいのが東京だと言っても過言ではありません。
本記事では、数多くの医療法人の分院展開をサポートしてきた行政書士が、東京都特有の手続きの流れ、絶対に避けるべき失敗パターン、そして成功のためのポイントを徹底解説します。
【最重要】東京都で分院を出すための「4つのステップ」と「魔のスケジュール」
個人の先生が分院を出す場合、基本的には保健所に届け出るだけで済みますが、医療法人の場合はそうはいきません。
まずは全体の流れを把握しましょう。
ステップ1:定款変更認可申請(東京都庁)
これが最大の山場です。医療法人は定款で「診療所を置く場所」を定めています。
新しい診療所(分院)を作るには、東京都知事の「認可」を得て定款を変更しなければなりません。
これには、「事前相談」から「認可書交付」まで、スムーズにいっても約3〜4ヶ月かかります。
あくまでスムーズにいってであって、コンプライアンスに何か指摘事項があるとそれを解決するまで認可が認められず、長期化することが多発しています。
昔のようにお目溢しが聞くという時代ではありません。
認可を早めるコツは、普段からコンプライアンスを徹底することです。
特に非営利性が重視されます。
東京都は、決算書のみならず勘定科目内訳明細書の提出が必須となっています。
その中に不適切なお金の使い方があれば容赦無く指摘され、追求されます。
会計は税理士に全部確認している、と仰る理事長先生も多いのですが、税務と医療法は別物です。
税務上よくても、医療法上不適切とされるものは多数あります。
医療法人は、株式会社ではない。これを忘れてはいけません。
そして、税理士さんは税務のプロであり、医療法のプロではありません。
もちろん、医療法も詳しい税理士さんもおられますが、かなり希少価値が高いです。
私も、多くの税理士事務所さんと提携して、医療法についてはアドバイスをさせていただいております。
ご存じのように、コンプライアンスが強く求められるようになったのは10数年前くらいからで、昔はお目こぼしがどの業界でも多くありましたが、今はそうはいきません。
なんとなく顧問税理士さんに聞いて大丈夫っぽいな、で行政側のチェックも甘くバレずに済んでいた時代ではありません。
今は、医療許認可法務に強い行政書士を側に置いておかないと危険な時代になりました。
ステップ2:変更登記(法務局)
認可書をもらって初めて、法務局で登記の変更が可能になります。
登記は司法書士が行います。(約2週間)
ステップ3:開設許可申請・開設届(管轄保健所)
登記完了後、分院のあるエリアを管轄する保健所(世田谷保健所、新宿区保健所など)へ許可申請を行います。
※東京都では、事前の「開設許可」とその後の「開設届出」の2段階手続きが必要です。
事前に許可、事後に届出、2回必要になります。
これも昔は医療ディーラーさんがセールスの一環で頑張って代行している時代もありました。
それ自体がそもそも違法(行政書士法違反)なのですが、昔は保健所もコンプライアンスがゆるい時代もあったのでスルーされていましたが、今はそうはいきません。
診療所の開設にも構造要件など法的規制が多数あります。
今はコンプライアンスをしっかりチェックされますので、ダメなものはダメで容赦無く止まります。
激しくこじれてから弊社にご相談を下さるご新規のお客様のご依頼も多発しています。
ステップ4:保険医療機関指定申請(関東信越厚生局)
最後に、保険診療を行うための申請を厚生局へ行います。
これにも締切日(毎月10日など)があり、1日でも遅れると翌月の保険請求ができません。
なぜ「最低6ヶ月」の準備期間が必要なのか?
上記の通り、ステップ1(都庁)が終わらないと、ステップ3(保健所)に進めないのが原則です。
「物件が見つかったから来月オープンしたい」というのは、医療法人の分院では物理的に不可能なのです。
物件探しや内装業者選定を含めると、オープン予定日の最低でも6ヶ月前、できればそれ以上前から医療専門の行政書士とタッグを組んで準備を始める必要があります。
審査で狙われる!経験上、東京都庁が厳しくチェックする「3つのポイント」
東京都の定款変更認可審査は、形式的なものではありません。
「その分院経営が本当に成り立つのか」が厳しく問われます。
① 予算と資金計画:本院の黒字経営は必須条件?(永続性)
分院の開設資金(内装費、機器購入費、当面の運転資金)をどう調達するかが問われます。
基本的に、「本院が安定して黒字であること」あるいは「十分な内部留保があること」が求められます。
これを「永続性」と言います。
もし本院が赤字続きの場合、「分院を出している場合ではないでしょう」と判断され、認可が下りない可能性があります。
銀行融資を受ける場合は、融資証明書の提出も必要ですし、事業計画や残高証明書なども必要となります。
② 場所と図面:賃貸借契約の「停止条件付」とは
申請時には、分院予定地の賃貸借契約書の写しが必要です。
しかし、ここで矛盾が生じます。「認可が下りるかわからないのに、契約して家賃を発生させるのか?」という問題です。
そこで、「定款変更の認可が下りることを条件に、契約の効力が発生する(=家賃が発生する)」という特約(停止条件付契約)を結んだり、フリーレント交渉を行ったり、
この交渉を不動産仲介業者やオーナーと適切に行えるかどうかが、無駄な出費を抑えるカギとなります。
ですが、一等地の場合は取り合いなので、なかなか交渉優位に立てる材料が乏しく、オーナー側の主張を飲まざるを得ないケースが多いです。
③ 管理者(分院長)の確保:名義貸しは即アウト(重大な違法です)
分院には、必ず常勤の「管理者(分院長)」を置かなければなりません。
複数の診療所の管理者になることは原則できません。申請段階で「誰が分院長になるのか」を確定させ、その医師の免許証や履歴書を提出する必要があります。
「オープンまでに誰か探します」では申請は受理されません。
また、この名義貸しが昔から横行していましたが、近年は都道府県も保健所も厳しく監視するようになり、摘発されます。
書類上なにか怪しければ、追求されます。
例えば、管理者の住所が開設予定地から遠く離れていれば当然、毎日通って常勤するのか怪しく見えますから追求されます。
また、近年はwebメディアやSNSなどで情報発信がされるようになりました。
これも行政は監視しています。例えば、この日診療所にいないとか、別の診療所で働いているとか、そういうことが見つかることもあります。
さらに、患者さんからの通報、スタッフからの通報、最近ですと同業他者からの通報まで増えてきています。
常勤していない管理者を置くのは極めて危険です。
「家賃の空払い」が発生する?行政手続きのミスが招く経営リスク
手続きを軽視して自己流で進めると、どのようなリスクがあるのでしょうか。
「定款変更」を甘く見てはいけない理由
よくある失敗が、「保健所には相談していたが、都庁への定款変更を忘れていた」あるいは「後でいいと思っていた」というケースです。
定款変更の認可がないと、保健所は開設許可を出しません。
結果、「内装も完成し、スタッフも雇ったのに、営業許可が下りない」という最悪な状態になり、認可が下りるまでの数ヶ月間、売上ゼロで家賃と人件費だけを払い続けることになります。
これは倒産に直結しかねない重大なミスです。金融機関やスタッフへの説明も非常に苦しくなります。
保険診療ができない「空白期間」の恐怖
無事にオープンできても、最後の砦である「厚生局」への申請が締切に間に合わなければ、「オープン初月は保険請求不可(全額自費診療)」となります。
患者さんに「今月は10割負担です」とは言えませんから、実質クリニックの持ち出しとなります。
都庁、保健所、厚生局。それぞれのスケジュールをパズルのように完璧に組み合わせなければ、この「空白期間」は防げません。
院長は経営判断に集中を。「医療許認可法務専門」の行政書士を参謀にするメリット
医療法人の分院開設は、単なる事務手続きではなく、高度なプロジェクトマネジメントです。
だからこそ、医療法務に特化した行政書士をパートナーにするメリットがあります。
都庁・保健所・厚生局の「たらい回し」を防ぐ
行政機関は縦割りです。保健所は都庁のスケジュールのことまで考慮してくれません。
すぐたらい回しにされます。例えば保健所はよくても都庁はNGなど、各機関ごとに判断解釈がありますから、全てをクリアする必要があります。
昔と異なり、複雑化しています。
私たちは、3つの行政機関の間に立ち、全体の進捗をコントロールします。
管轄保健所ごとの「ローカルルール(図面の細かな要件など)」も熟知しています。
複雑な「管理者要件」と「ドクター採用」の法的アドバイス
分院長のヘッドハンティングや契約条件において、「管理者の責務」を理解した上での契約書作成など、法的な側面からアドバイスを行います。
また、管理者変更の際の手続きも見越したサポートが可能です。
融資や内装工事とのスケジュール調整役(PM機能)
「いつまでに内装を完成させれば、○月1日の保険指定に間に合うか」。
このデッドラインから逆算して、内装業者や医療機器メーカー、銀行担当者と連携を取り、理事長先生の負担を最小限に抑えます。
急にやろうとしても、行政はこちら側の事情は考慮してくれません。
ぜひ、事前に医療許認可に明るい経験豊かな行政書士を身近に置いておくことをお勧めします。
税理士さんの税務顧問、社労士さんの労務顧問、弁護士さんの法律顧問、行政書士の許認可顧問という時代になってきています。
【FAQ】医療法人の分院開設に関するよくある質問
ここでは、分院展開を検討中の先生からよくいただく質問にお答えします。
Q1. 居抜き物件(継承)で分院を出す場合、手続きは早くなりますか?
A. いいえ、行政手続きの期間は「新規」と変わりません。
内装工事の期間は短縮できますが、東京都庁への「定款変更認可申請」の審査期間(数ヶ月)は、居抜きであっても短縮されません。
逆に、前のクリニックの廃止届との兼ね合いや、カルテの引き継ぎ、賃貸借契約の名義変更、手続きをせずに勝手に内装工事を行っていたり調整事項は増えてむしろ複雑になる傾向にあります。
「居抜きだからすぐオープンできる」という思い込みは危険です。
Q2. 医療法人の分院長(管理者)は理事になる必要がありますか?
A. 原則管理者は理事になることを求められます。
分院長は分院の医療と経営に責任を持つ立場ですので、理事として経営に参加するよう指導されます。
理事になるということは、雇用契約ではなくなります。お給料も役員報酬となります。
役員報酬は定期同額が原則ですから、インセンティブなどの変動は原則できなくなります。
この辺りは、事前に税理士さんと使用人兼務従業員にできる状態であるかなど精緻な協議の上管理者候補の方との合意を得ることが必要です。
Q3. 本院からどのくらい離れた場所まで分院を出せますか?(遠隔地)
A. 原則として制限はありませんが、「管理運営が可能か」を問われます。
東京都の医療法人が、千葉県や神奈川県、あるいは沖縄県に分院を出すこと自体は可能です。
ただし、定款変更の審査において、「理事長が物理的に離れた分院をどう管理監督するのか」「何かあった時にすぐに駆けつけられる体制はあるか」といった管理体制について、追及されます。
また、他県にまたがる場合、定款変更の認可権者が東京都のままで良いのか、他県へ移る必要があるのかといった高度な判断も必要になります。
なお、診療所所在地と管理者の先生の住所が遠いと本当に常勤するのかかなり厳しい追求を受け認められないことが多いです。
Q4. 分院の名称に制限はありますか?
A. はい、あります。
「〇〇病院」「〇〇センター」など、誤解を招く名称は使えません。
また、近隣に類似した名称のクリニックがある場合、保健所から変更を指導されることがあります。
看板を発注してしまう前に、必ず候補名を保健所に確認する必要があります。
まとめ:東京都での分院成功のカギは「段取り」にあり
医療法人の分院開設は、クリニックの成長を加速させる大きなチャンスです。
しかし、その道のりは個人の開業よりも遥かに険しく、特に東京都の手続きは「日本一厳しい」と言っても過言ではありません。
「いい物件が見つかったのに、手続きが間に合わず諦めた」
「家賃の二重払いで、初年度の利益が吹き飛んだ」
そのような事態を避け、最短ルートで確実に分院をオープンさせるために、ぜひプロフェッショナルを活用してください。
理事長先生が描く「次のビジョン」を実現するため、当事務所が全力で法務・行政手続きをサポートいたします。
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- このスケジュールで間に合うか知りたい
- 分院展開のシミュレーションをしてほしい
そのようなお悩みをお持ちの先生は、まずは一度ご相談ください。東京都の分院開設実績豊富な行政書士が対応いたします。
医療法人の設立・運営面についてサポートします!
医療許認可の専門家として17年。医療許認可1,500件以上の実績。
医療法人化または一般社団法人による診療所開設、
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